




「新書、大好きです‼と昔から言っているつもりでちょこちょこSNSや書評で新書を取り上げていたのですが、2024年は自分の本が新書として売れたからか、なんだかおすすめの新書を語る機会があって嬉しかったです。新書は安いし読みやすいし書店でも新刊は手に入りやすいし、なによりも良き入門書として書こうとしている著者の方が多いのではと勝手に思っていて、そこが好きなところです。とくに研究者の方が新書を書く時、ほとんどの場合公共性を意識しているといいますか、たくさんの人に学問を開きたいと思って書いてくれているのではないかと。ありがたいです。
こうして読者として面白かった新書を取り上げる機会を、今後もつくっていきたい。新書という文化は日本独自のもので、海外でこのように大学の知を安くわかりやすく手に入れられるレーベルは少ないのではないか、と思っています。これまでは新書というと中高年向けと言われてきましたが、むしろ若い世代の入門書として扱われるように、自分も働きかけていきたいですね」。
大垣書店京都本店さんでの選書を終え、そのように述べた三宅香帆さんが選んだ新書とは?

最近、「居場所」というテーマに関心があります。家族や会社、趣味などは、社会と個人の間に存在する「中間の居場所」です。今の世の中は、そういう「中間の居場所」をどうやって作るかという問題が、個人に委ねられている。かつての村社会のようなものと比べると、ひとりひとりが自由に選べる現在の方が確かにいいかもしれません。その一方で、今は「中間の居場所」から少しでもはみ出してしまうと、もう戻れない。セーフティーネットがないともいえます。それに、家族だろうと会社だろうと、趣味の場だろうと、どれも居場所としては課題が残る。
書店さんで少し読んだ限り、この本は戦後社会の歴史と居場所について論じているようです。歴史から居場所を捉えるという視点は面白そうですし、「中間の居場所」を考えるうえでもヒントになるのではと思って、選びました。
タイトルは知っていた本です。まさか新書版で復刊しているとは! 何かの引用でタイトルを目にして読みたいなと思っていたので、とても嬉しいです。
新書で復刊するって、いい試みだと思うんですよね。少し前に、私の『「好き」を言語化する技術』も新書で復刊していただきました。その時に感じたのですが、新書復刊だとデザインも読み心地も異なるし、書店さんでも単行本とは違う棚に置いてもらえたりする。ノンフィクションの復刊は文庫が多いけれど、ノンフィクションに興味がある読者層には、文庫より新書の方が手に取ってもらいやすい気もします。
本書は30年ぶりの復刊だそうで、主にアメリカ映画や作品から郊外を読み解いている。おそらく、郊外とアメリカ戦後文化みたいな内容ではないかと予想しています。新書としては分厚い500ページ超えなので、じっくり読みたいですね。

面白いタイトルですよね、『武士の介護休暇』。でもよく考えたら、いつの時代でも介護は必要だよなぁと。実は年明けくらいから、「なぜ夫は病院に行かないのか」というタイトルで連載が始まる予定です。会社に所属して働いていると、病院に行きにくくないですか? それこそ、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で私が問題視した「全身全霊」型の労働だと、仕事を優先してしまって病院からは遠ざかってしまう。そんな現状をどうすべきか、連載では考えたい。
本書は江戸時代の武士の介護と儒教の影響がメインテーマのようです。加えて、江戸時代以前の古代~中世の介護についても扱っている。介護・ケアの歴史を分かりやすく解説してくれていることを期待して、参考になればと選びました。こういうニッチなテーマを扱ってくれるのが、新書のいいところです。
会社と労働について考える流れで、続いてはこちらを。日本の会社研修やビジネス研修がどう変わってきたのか、その変遷を論じていたので気になりました。私も会社で働いていた時、真面目に研修を受けた記憶ってあまりない。今振り返っても、身になった研修ってそんなにあったのか?という気持ちになります(笑)。
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を執筆するため、自己啓発と会社の歴史について調べていた時期があります。その時にも、会社研修という仕組みは気にはなっていた。でも、会社研修に疑問を覚えるのは、私が現代の社会で働いているからかもしれない。昔と今では、会社研修への印象は違うのではないか? この本はデータもたくさん載っているので、会社と自己啓発について何かしらの手がかりが得られればいいなと思っています。
――三宅さんのご著書を読むと、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』執筆以前から「働くこと/労働」について関心を持っていたように感じます。
三宅 会社がなぜ今のような仕組みの組織になったのか、ずっと興味があります。会社という組織は、謎が深い。悪いところばかりでもなく、先ほど述べたように、会社が居場所になっている人はたくさんいる。日本の会社の多くは、福利厚生を肩代わりしてくれる集団でもあります。会社員として働いていた時も、辞めた今も、日本の会社ってやっぱり変な場所だよなぁと感じる。会社と労働は、常に気になっているテーマです。
これも会社と労働シリーズで選んだ本です。リスキリングは、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の延長線上にある話題だと考えている。ビジネス書など、仕事のための本であれば読む人は読んでいるだろうと、以前は思っていたんですね。ところが今は、仕事のための本であっても読めない人が多い。そういう感想をもらうこともあって、素直に驚きました。
でも、ビジネスシーンでは、リスキリングやリカレント教育という言葉をよく耳にしますよね。また、日本企業は世界的にもリスキリングが進んでいないという指摘を読んだこともあります。この本の26ページには、人材投資の国際比較の表が載っているのですが、日本だけ非常に低い。実際のところ、企業のリスキリングや学び直しはどうなっているのか。そのあたりに興味があって、選んだ一冊です。

少し前に、池上さんの『総決算 ジャーナリストの50年』(ハヤカワ新書)を読みました。非常に興味深い日本報道史で、池上さんの自伝的な内容でもあった。文庫や単行本ではなく、新書で自伝を刊行しているところに、池上さんの素晴らしさを感じます。
池上さんは、講談社現代新書で『日本左翼史』というシリーズを佐藤優さんと刊行されている。個人的にも好きなシリーズです。その中で池上さんは、学生運動の頃に危ない目にあった話やNHKに入社した当時の話をしていました。池上さんの本は、どれも生きる昭和平成史みたいなイメージがある。この本も、池上さんの視点で語られる戦後史を知りたくて手に取りました。
――講談社現代新書は、保阪正康『テロルの昭和史』も候補として悩まれていました。「昭和」に関心があるように思えたのですが、何か理由があるのでしょうか。
三宅 先ほどお話しした新連載「なぜ夫は病院に行かないのか」の執筆にあたって、昭和について調べているというのが大きな理由です。それとは別に、昭和史は面白いけれど、まだエンタメにはなりきれていないところがあると感じている。私は朝ドラが好きでよく見ているのですが、戦前はすでにいろいろなことが指摘されていて、題材になることも多い。それ以前の時代も同様です。しかし昭和後期、特に戦後を舞台にした作品になると、急にふわっとした内容のものが増える。そういうものを見ていると、戦後はまだもう少し、エンタメとして描かれるべき余地が残っている時代だと思います。
たとえば戦後の会社史を調べると、今も続く会社が初期の頃どのような形態だったのか分かる。西武はインテリの集う会社だったなど、興味深い事実がたくさん出てくるし、バブルの話などは資料を読むだけでワクワクします。令和になってやっと、昭和をノスタルジーなく振り返ることができるようになったのではないか。そしてそれは、昭和後期を実体験としては生きていない、自分たち世代の仕事だと考えています。

刊行情報を見て、めちゃくちゃ読みたいと思っていた本です。第一章は「「右翼雑誌」はこうして作られる」。気になりますよね! 星海社新書はいつも尖った面白い企画を出していて、本当に尊敬します。本書はまず、帯のデザインが最高にいい(笑)。一瞬見ただけでは、星海社新書だと気づきません。
帯を見て衝撃だったのが、『WⅰLL』の発行部数が10万部を超えているということです。出版不況と言われる中で10万部! 雑誌が売れなくなって、出版社も書店さんも厳しくなっています。昔は1ヶ月に1回、雑誌を買うために必ず書店さんに足を運ぶお客さんが一定数いた。そういう人たちが、店頭で目に留まった書籍を買っていたんですね。月1回必ず来てくれるお客さんがいるって本当に大きなことなのだと、書店さんでアルバイトをしていた頃に痛感しました。
雑誌がインターネットに取って代わられる一方で、売り上げを伸ばしているのが右翼雑誌です。もちろん是非はあるし、考えなければならない問題も多い。けれど10万部以上売れているということは、右翼雑誌が今もなお「雑誌」という媒体がやるべきことをやれている証拠でもあると思います。インターネットが取って代わることのできない雑誌の機能を、右翼雑誌が保ち続けている理由は何なのか。面白かったという感想をSNS上でも見かけたので、今から読むのが楽しみです。
これはタイトル買いです。こういう話って、やっぱり新書が一番上手いし、よくまとまっている印象がある。「「民意」を作るのは0.2%のユーザーだった!」もいい帯ですが、裏面の「ネットで評判の悪い候補者が、結局当選を果たす理由とは?」も表に持ってきてほしい。インターネットで世論が形成されていくことの功罪は、今一番知りたい内容です。
ネット世論は、2024年最大のテーマですよね。アメリカ大統領選、総裁選、知事選だけでなく、ジャニーズ事務所問題もネット世論が強く関係している。
私も使うからこそ余計に感じるのですが、インターネット空間は全体像が摑みづらい。客観的なデータで見ないと、どうしても自分が見ている印象だけで語りたくなってしまう。そんな時、本書のようにデータがたくさん載っている資料は参考になります。2024年8月刊行というのも、高ポイントですね。
『「ネット世論」の社会学』と同じ流れで選んだ本になります。民衆とアメリカ大統領選は、今年いろいろな場所で議論され、本もたくさん刊行されました。その中で、Z世代にのみ焦点を当てているのは珍しい。
今のネット社会で、どうやって世論を広げていくのかは、大変興味があるテーマです。しかもアメリカは日本より意識的に、ポッドキャストやSNS、インターネットを用いて世論の拡大を図っている。それがどういう風に若者に影響を与えているのか。目次を見ると、「分断を先導する若者たち」、「分断に抵抗する若者たち」、さらに「分断回避を試みる若者たち」と続く。『Z世代の闘争』と副題にもありますが、若い世代が直面している分断はどのように形成されているのか、学びたいと思います。
もう一冊、同じジャンルから選んでみました。若者論は、どの時代でも常にたくさん書かれている。ちょうどPHPさんの『Voice』という雑誌で、「考察したい若者たち」という若者論を私も連載しています。
その中でこの本を手に取ったのは、編著という特性もあってか、網羅的に書かれていると感じたからです。気になるトピックも多く、「マッチングアプリと恋愛コスパ主義」といった内容から、「地域間格差と若者の希望」というテーマまである。「地域と若者」は特に今後考えたいテーマのひとつなので、どのように論じられているのか楽しみです。
今年(2024年)のサントリー学芸賞「社会・風俗部門」の受賞作です。第46回のサントリー学芸賞の受賞作のうち、中公新書は三冊選ばれている。珍しいですよね。渡辺さんの本は以前も他のものを読んだことがあって、語り口が面白いし信頼できる内容です。
本書は、台湾の民主主義をいろいろな角度から分析している。私が気になったのは、台湾のメディア環境や選挙キャンペーンについてです。第七章「デジタル民主主義の光と影」では、台湾でデジタル大臣をしていたオードリー・タンさんへのインタビューが引用されている。オードリー・タンさんによると、台湾にはX(旧:Twitter)やInstagramのような民間のSNSとは別に、政府が作った公的なソーシャルメディア/プラットフォームがあるそうです。イーロン・マスクによるXの仕様変更が顕著なように、XやFacebookなど今の民間のSNSは、結局は儲けるための仕組みにならざるを得ない。けれど、もし本当に公的なSNSが作れるのだとしたら、現状のSNS空間が抱える問題を解決する一番いい方法かもしれません。
また、台湾はネットを活用した政治キャンペーン、中でもインフルエンサー・マーケティングが全面的に行われているそうです。YouTuberやインフルエンサーが支持政党を表明するだけでなく、政党とコラボした動画をアップしたりする。最先端の方法で世論を形成している台湾のIT事情には興味があるけれど、全然詳しくない分野なのでこの機会に知りたいと思って選びました。

率直に、勉強しようと思って選んだ一冊です。経済、もう少し理解したいと思っているのですが難しくて……。学生の頃から、特に思想史には弱いんです。不勉強で本当に申し訳ございませんと、いつも感じている。
本書はケインズの経済学を中心に経済学史や経済思想史にも触れているようなので、まずはここから勉強を始めようと思います。単行本に比べると、新書はページ数も少なく価格も安い。特定の分野に特化しているものも多いので、勉強の入り口にぴったりです。
少し前から京都市立芸術大学のデザイン学科で授業をしていて、学生の参考になりそうな本だと思って手に取りました。といっても、私はデザインについて教えているわけではなく、最後に雑誌を一冊作るという授業で生徒を手伝っている感じです。デザインは究極、「誰を読者に設定して、どういう風に伝えるか」だと思っていて、この本はそのことを分かりやすく教えてくれそう。「ちくまプリマー新書」は、あまり本を読み慣れてない学生にもおすすめです。学生が手に取りやすい価格設定なのも素晴らしいです。
シンプルに、林先生の仕事術が気になりました。どうやってあんなにたくさんの仕事をしているんだろう……。本当のことを書いてくれているかどうかは、気になるところですけどね(笑)。
林先生は予備校の講師というのが、興味深いです。私は予備校にほとんど行ったことがないので、どういう場所なのか詳しくは分からない。でも、予備校で勉強の楽しさを知ったという友人は周りに結構います。予備校という場所が学問の入り口になった人は、意外といるのではないか。そう考えると、林先生の存在自体が面白くて気になります。何がどうして、あんなにすごい人になったのか。その一端を本書で知りたいと思います。

冨山房百科文庫、佐藤春夫の本も出しているんですね。佐藤春夫『退屈読本』も気になりますが……石川淳のエッセイ集があったので、こちらにしました。石川さんの『紫苑物語』という小説が大好きなのですが、それ以外の作品はあまり読んだことがなくて。講談社文芸文庫の『焼け跡のイエス』は読んだはずだけれど、大学生の時だったので正直内容はしっかり覚えていない。でも、『紫苑物語』は文章が美しいなと思いながら読んだ記憶があります。石川さんの文章に興味があるので、短編エッセイ集である本書を読んでみたくて選びました。
